日刊工業新聞の機械設計 第10号2001年7月別冊”CAD攻略マガジン”
に当社は、取材協力し掲載されております。
下記は、その際の記事の文字部分の内容です。

3次元CADを駆使して
内部構造を考慮したデザインを提案
機械設計の経験を工業デザインに活かす

ラムエンジニアリング 河村 理氏
 工業デザイナーの方はどんな発想でCADを使っているのかという点については、素朴な興味が沸く。
 20年近いキャリアを持つ河村理氏(潟宴エンジニアリング代表取締役)は、「工業デザイナーはレオナルド・ダヴィンチのようでなければならない」と事も無げに言う。ヘリコプターの原型を構想し、永久機関の実現を試み、絵画にも人体に関する知識にも秀でていた天才。工業デザイナーがそのようでなければならないとは、どういうことか?

■ ト−タルの設計経験が基盤
 河村氏の原点は、80年代にフォーミュラカーの設計と製造に携わったという経験にある。レーシングサービスワタナベというホイールなどの製造販売を行う会社に在籍し、同社が当時注力していたレース出場に関連するメカまわりのことはすべて自分の手で手がけた。
 「エンジンとタイヤ以外は、すべて自分たちの手で作っていました。ドラフターを使って図面を引き、FRP素材のカウルをデザインしたり、アルミのモノコックシャーシを設計し、旋盤・溶接から仕上げの磨き加工まで、全部自分たちでやっていたんです。平日はそうした設計と製造をやり、週末のレースに備えてスペアなども作成し、週末になるとドライバーがそのマシンをサーキットで走らせる。それが終わると次週に備えてマシンをばらし、整備を行い、必要な改良を加える。
 そうしたことを繰り返しているうちに5年間があっという間に過ぎてしまいました」
 外観のデザインも行い、機構の設計も手がけ、さらには必要があれば部品を自作してしまうという河村氏の多面的なスキルはこの当時に磨きぬかれた。
 その後、自動車関連のアクセサリーや内装品を製造販売する会社に移籍。92年に独立して、潟宴エンジニアリングを設立した。
 現在、河村氏が手がける業務は非常に幅が広い。いわゆる発明家の依頼を受けて、特許や実用新案を取得できる可能性のあるアイディアを元に機構やパッケージを具体化するといった案件から、ドライバー用の近未来的なデザインを持ったハンズフリー通話装置のデザイン・詳細設計まで、様々な顧客の要望に応えている。
 要求がありさえすれば、外観デザイン、詳細設計、金型設計のすべてを引き受け、さらには複数の要件を満たすメカニカルな独自機構の設計や、商品搬送時の容積圧縮に効果のある梱包材の構造提案までもカバーする。「特に稼動部がある機構の設計は得意」と言う河村氏の自負の背景には、フォーミュラカーを自らが設計・製造してきたという経験がある。

■ スケッチを描くよりCADのほうが早い
 CADユーザーとしての河村氏は、15年前からMicroCADAMを使い始め、その後、Pro/ENGINEERを導入して完璧にマスターし、最近ではIDEASの習得にかかっている。
 3D CADが現在のように一般的ではなかった当時、河村氏は、顧客に対するプレゼンテーションを作成する場合でも、MicroCADAMで下書きを行い、平面図として出力し、それをレタッチソフトのPhotoShopで色づけするなどして作成していた。同氏にとっては、CADソフトが詳細設計のツールでもあると同時に、ラフなデザインをまとめていく構想設計の支援ツールでもあるわけだ。
 「実は絵を描くのが不得意なんです」と謙遜する河村氏だが、鉛筆やマーカーを使ってスケッチを描いていくよりは、CADソフトを使う方が早いのだと言う。
 96年頃に、そうした構想設計と詳細設計の双方を3次元で行うためのツールとしてPro/ENGINEER(以下Pro/E)を導入した。当時、Pro/E以外で検討に足る選択肢としてはCATIAぐらいしかなった。CATIAは自動車ボディのデザインなどで盛んに使われ始めていたが、自動車ボディのデザインは独立系の工業デザイナーが取り込める範疇にない。Pro/Eであれば家電メーカーなどの案件に対応することもできるため、それに決めたそうだ。2週間程度の講習を受けて基本操作をマスターしたが、三次元の発想に完全に慣れ、アセンブリ構造が体で分かったのは数ヶ月後だったと言う。
 それ以降、構想設計のプレゼンテーション作成は、Pro/Eで作成した三次元データを*エステマージ*でレンダリングし、細部の調整をPhotoShopで行うという手順で進めている。もちろん詳細設計ではフル稼働している。
 3次元ツールのよさについて、河村氏は次のように説明している。
 「手書きのラインは、設計から製造に至る工程の中では、言ってしまえば書いた時点で終わってしまうわけです。その点、三次元CADで描いた線はまったく次元にあります。各々の線自体が正確に引かれているわけですし、それがそのまま後工程にも伝わっていく。個人的にも創造性が広がるように感じています」。
 例えば、二次元設計で微妙な曲面の伝達ができにくい場合、試作業者が自らの判断でその曲面を作り上げてしまうということが起こる。工業デザイナーの観点で見れば、これは非常に歯がゆい現象だ。三次元ツールによる設計では、そうした”ぶれ”が出る余地がない。

■ 製品の内部構造にまで踏み込む
 河村氏は「工業デザイナーも製品の内部構造にまで踏み込んだデザインを行うべきだ」という持論の持ち主でもある。
 一般的に、工業デザイナーはデザインこそが重要であって、デザインスケッチをクライアントに渡してしまえば、後は機械設計サイドの仕事だと突き放してしまうケースが多い。そもそも、CADを敬遠している態度こそがよいのだとしている工業デザイナーも未だに多数存在する。
 そうしたなかで、河村氏のスタンスはかなり異色だ。そこには「デザインは機械設計と不即不離のものだ」という信念がある。
 例えば、あるオーダーがあって、筐体のデザインを行う場合であっても、内部の部品に関する二次元設計データをクライアントからもらい、それをPro/Eで三次元化して、干渉の起こり得ないデザインを提案するのだという。複数のデザイン案の提示を求められるような場合でも、そのようにPro/Eで内部を作り込んだデザインを顧客に提示する。
 「つらいところもないではないですが、手書きのスケッチを3枚持っていくのとは訳が違います」と言う河村氏は、「金型として実現できない形状を持ったデザインを提案するのはどうか?」とも指摘する。
 連携が緊密なメーカーとのやりとりでは、試作を経ないで後の工程に入ってしまうこともあるそうだ。上述のハンズフリー通話装置を手がけた際には、組み立て工程で特殊な技能を持たない担当者が、小さな部品を「ぱちん」やるだけで嵌め込めるように、細部の修正を行ったりしている。

■ 原点から発想し直す
 ただし、こうした詳細設計のエリアにまで踏み込んだデザインを行う一方で、デザイナーとしての視点は確固としたものを持っている。
 「例えば、水道の蛇口ひとつとっても、それを専門に製造する企業の設計者の方は、おそらく『蛇口って何だろう?』というレベルにまで下りてデザインを考えるということはないと思うんです。海外の優秀なデザインの製品を参考にしたり、自社の製品の外観を改良したりということはあるかも知れませんが。その点、われわれは、「蛇口って何だろう?」という原点から発想し直し、デザインを提案していくことができます」
 ここで河村氏が言うデザインとは、外観のフォルムの美しさという部分ももちろん含んでいるが、それ以外に、オリジナルな機構を含めて発案することで、まったく新しいデザインが可能になるのではないかということを言っているのである。
 河村氏が手がけた具体的な例では次のようなものがある。コンビニエンスストア店頭に設置するカップ麺用の給湯器で、「スイッチを押してお湯が出る」という仕組みを拡大解釈し、カップを両手で持ったままでも『頭で』スイッチ相当の部分を押せば給湯が始まるという風にしたデザインを行った。普通、この種のスイッチは垂直に押下するものだが、その垂直のベクトルを水平に変えて発想してみたそうだ。
 また、テーブルの上などに置くことを想定した小型水槽のデザインでは、照明も浄化装置もすべて一体化してしまい、背面をさらけだすような場所に置かれても違和感のないデザインを実現した。このケースでは、水槽の蓋の部分に照明装置を組み入れ、特色を出している。
 これらのデザインは、できる限り内部を作り込んだ形の3Dデータとして納品されている。

■ 2次元で済む仕事はもはやない
 現在、河村氏がIDEASの導入を進めているのは、次のような理由があるからだ。
 長年、良好な関係を保ってきた大手乳幼児用品メーカーの設計部門があるとき、MicroCADAMからIDEASへの移行を果たした。Pro/Eユーザーである河村氏はそれ以降、同社から受け渡されるIDEASのデータをPro/E用に変換し、自分の担当部分のデザイン作業を進めるという手順でやることにした。IDEASのデータは同社からアセンブリした形で来る。これを変換し、パーツに分解し、自分の担当部分を作成し、それを再び組み込み、再度変換をかけて納品するという全手順のうち、変換にかかる手間が3割を占めることに気付いた。
 「変換に伴って履歴が消えてしまうといった不都合が多々発生し、その対応策でかなりの時間を費やしました。当然のことながら、そうした変換の作業のコストは請求できません。それならIDEASを購入してしまった方が早いと判断しました」。長くつきあってきたクライアントであるため、総合的に見てそれが見合うと判断したのだと言う。
 Pro/Eの習得だけでも一般的には非常に難しいとされているなかで、新たにIDEASを購入し、その操作に習熟しようとしている氏の姿勢には大いに学ぶべきものがあるだろう。様々なメーカーで設計の三次元化が急速に進む現在である。「二次元で終わる仕事は、もはやないと考えています」と河村氏は言う。

■ 設計者がカバ−しにくい視点を織り込む
 「理想的なのは、工業デザインと機械設計とを兼ねるような人の存在です。もっと極端に言えば、金型の設計を行う人がデザインもカバーできればいい。しかし、それは理想であって現実には難しい話です。
 そうしたなかで、工業デザイナーの立場の人間にとってできるのは、『勉強』しかないと考えています。CADシステムに習熟するということもそうですが、外形フォルムの形状がどういう具合に詳細設計に影響を与えるか、逆に詳細設計の面で制約があるのであれば、外形のデザインはどのようにうまくできるのか。そうした部分を常に考えていかなければなりません」。
 「工業デザイナーとしては、設計者の方々がカバーしにくい視点、例えば『消費者がどう考えてこの製品を使うのか?』といった部分に留意しながらデザインを行っていきたいと考えています」。
 河村氏がレオナルド・ダヴィンチを引き合いに出す理由が、かなり明確になってきたのではないだろうか。
 
   
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